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ボコノンの書 (出典:猫のゆりかご カートヴォネガットJr) |
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著者 ボコノン(ライオネル・ボイド・ジョンスン)
1891年、トベーゴ島生まれ、監督教会派、黒人
著作年代 1930年代頃より60年代(カリブ海、サン・ロレンゾ島)
プエルトリコ沖、サン・ロレンゾ島にて新興されたカルト宗教<ボコノン教>の聖典。無省略版の辞書位の大きさで、手書きである。完本は存在せず、日々、教祖により加筆されている。
その教義は、冗談半分に発明された教義で語られ、宗教への皮肉によっ綴られている。
ボコノンによると、真実は民衆の敵、真実ほど見るに耐えないものは無く、見かけの良い嘘を人々に与えるのが自分の仕事と心得ていたらしい。人々の生活に張りが出るように、旧知のマッケーブ大統領と島からの追放を自作自演した。
だからおれ言ったのさ グッバイ大統領
政府に反逆しなければ 良い宗教は作れない
生きる張りを作るため、鉤釣りの刑罰をも考案した彼は、良い社会は、悪に善をぶつけ、両者の緊張を常に高めておく事で築ける、[動的緊張]という考えを持っていたらしい。
以下、その経典の断章である。
第1の書
《扉の警告》
馬鹿な事はやめろ!すぐこの本を閉じるのだ。<フォーマ>(無害な非真実)しか書いてないんだぞ。
《始まり》
私がこれから語ろうとする様々な真実の事柄は、みんな真っ赤な嘘である。(嘘の上にも有益な宗教は築ける。それが解からない人間にはこの本はわからない。わからなければそれでよい。)
《天地創造》
太陽(ボラシン)が月(パフ)を両手で抱き、冷えた燃えない子供を産み、太陽はそれを嫌って子供を放り出したので、惑星は父の周りを回るようになった。やがて月は捨てられ、彼女の一番愛する息子と暮らし始めた。それが地球である。
この宇宙論について、ボコノン曰く「フォーマだ!嘘のかたまりだ。」
《人類誕生》
はじめ神は大地を創造された。そして広大無辺な孤独の中から地上を見下された。そして神は言われた。「泥から生き物を創り出そう。私のした事が泥に見えるように。」泥から生まれたものの中で、人だけが話す事ができた。人は立ち上り、当りを見回し、目をしばたいた。
「一体これには何の目的があるのですか?」人は丁寧に尋ねた。
「あらゆるものに目的がなければいけないのか?」神は聞かれた。
「もちろん。」と人は言った。
「では、これの目的を考え出すことをあなたに任せよう。」と言って神は行ってしまわれた。
もちろんたわ言だ。(とボコノンは言っている。)
《第5節》
フォーマ(無害な非真実)を生きるよるべとしなさい。それはあなたを、勇敢で、親切で、健康で、幸福な人間にする。
第6の書
《苦痛の問題、拷問について》
もし、私が鉤吊りにされるような事があれば、たいへん人間らしい振る舞いをすると思いなさい。(続いて拷問台、ペディウンカス、鉄の処女、ヴァリア地下牢を語り)どれをとっても泣き叫ぶ羽目になる事には変わりない。ただ地下牢だけは、死ぬ前に時間をくれる。
第7の書
《ボコノン共和国》
ドラッグストアを一手にする人間が世界を支配する。まず、ドラッグストアのチェーン、食料雑貨のチェーン、ガス死刑室のチェーン、それに国民競技から国の建設を始めよう。憲法を作るのはその後でいい。
第14の書
《思慮深い人間が過去100万年の経験を積んだ地上の人類に希望できる事は何か》
「ゼロ」 (この書はこの単語一文字で成っている)
巻数不明
人類というものがたくさんのチームから成っていると信じている。本人達は知る事無く、神の御心を行うチームである。そのようなチームを<カラース>人をその中に組み入れる道具を<カンカン>名付けた。
もし、あなたの人生が、それ程筋の通った理由もないのに、どこかの誰かの人生とからみあってきたら、その人はおそらくあなたに<カラース>の一員だろう。人はチェス盤を作り、神は<カラース>を作った。(カラースは民族的、宗教的、制度的、家族的、ないかな境界にもとらわれない。)
全能の神があらしめているわざの真の意味を見極めようとする人間には、何の戒めも与えない。そのような試みは中途半端に終わるのがおちだ。(例え話がつづく)
誰であれ、神のみわざがどの様なものか知っていると思う人間は、みんな馬鹿なのだ。
あらゆるものが〈ワンピーター〉になりうる。共通の〈ワンピーター〉をめぐる〈カラース〉のメンバーの軌道は、精神的な軌道である。円運動するのは魂であり、肉体ではないのだ。そしてワンピーターは来たり、ワンピーターは去る。いつであってもカラースには2つのワンピーターがある。一つは重要性を増す方、一つは減じる方である。
おかしな旅の誘いは、神の授けるダンスレッスンである。
〈グランファルーン〉カラースらしく見えて、神がそうあらしめている物事との関連において、無意味なもの。共産党、愛国婦人団体、あらゆる時代のあらゆる国家がそうである。
イエスの言葉「カエサルのものはカエサルへ」ボコノン曰く「カエサルなんて気にするな。世の中が本当はどうなっているかなんて、カエサルは何も知っちゃいないのだから。」
赤んぼでいなさいと聖書は言う。だから今日まで赤んぼなんだ。
〈ザーマーギボ〉避けられない運命のこと。
〈シンワット〉人の愛を独り占めしようとする男。とても悪いこと。
ボコノン教で神聖なもの、人間さ、それだけだ。
恋するものは嘘吐つきだ、自分自信に嘘をつく、正直者に恋は無い、その目はまるで牡蠣のよう。
自殺しようとする時、ボコノン教徒が必ず言うこと。「よし、世界を滅ぼしてやる。」
時に〈プールパー〉は人に評価の余地を与えない程、強烈になることがある。(〈プールパー〉神の怒り、ちびちびうんこ)
人は誰でも休息がとれる。だが、それがどれ位長くなるかは、誰もわからない。
「歴史だ!読んで、泣け!」
「今日、私はブルガリアの文部大臣になる。明日、私はトロイのヘレンになるだろう。」私達はみんな自分自身でなければならない。
だらだら、だらだら俺たちゃやる やらなきゃならない事だから えんやらえんやらやらかして しまいにゃ体がつぶれちゃう
こんな男に気をつけろ、何かを学ぼうとして散々苦労し、学んだ後で自分が少しも利口になっていないと気付いた男。そういう男は自分の愚かしさにたやすく気付いた人々を、殺したいほど憎んでいる。
カリプソ第14番
昔の俺は陽気なあたくれ 酒はくらうし女の尻は追い回す まるで若い頃の聖オーガスティンみたい やつは聖者になったんだ おれももしかしてなるんだから ねえママ 気絶しないで
カリプソ第53番
おお、セントラルパークで居眠りしている酔いどれどもも 昼なお暗いジャングルでライオン狩りするハンターも それから支那の歯医者さん イギリスの女王様 みんなそろって同じ機械の中 ナイスナイス ヴェリナイス ナイスナイス ヴェリナイス ナイスナイス ヴェリナイス こんなに違う人達がみんな同じ仕掛けの中
カリプソ第119番
「俺の仲間はどこ行った?」かわいそうな男がそう言った。おれはこっそり教えてやった。「みんな遠くに行っちゃった。」
不明カリプソ集
俺は考えたんだ みんながぴりぴりするよりも 幸せになれるなら そう、何とか筋を通せば良い 俺は嘘をこしらえた 全てがぴたりと収まるように すると楽園になったじゃないか みじめなみじめなこの島が
こびとよこびと なんと気取った歩きぶり そうだ考えの大きさで決まるんだ その男ぶり
くっつけ合おう足と足 そう 精いっぱい力いっぱい 愛し合うんだ そう母なる大地を愛するように(この行為はボコマルと呼ばれている)
いつかいつかこの狂った世界にも 終わりの日がやってくる そして俺達の神様は 俺達に貸されたものをとり返す もしその悲しい日 神様を怒鳴りつけたくなったら 怒鳴りつけるはこちらの勝手 神様はただ微笑んで こっくりうなずかれるだろう
物語の最後にボコノンの書のしめくくりが記されている
もし私がもっと若ければ、人間の愚行の歴史を書くだろう。そしてマッケーブ山の頂にのぼり、歴史を枕に横になる。そして地面から、人を彫像にする青白い毒をつまみあげ、自ら彫像となるだろう。怖しい笑いを浮かべあおむけになり、天にいる誰かさんを見上げるのだ。親指を鼻につけ、手のひらを広げた格好のまま。
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