偽書収蔵庫

クトゥルー神話体系における偽書目録
 ラヴクラフトによって創作されたクトゥルー神話体系を著した偽書をここに集成する。
著作フリーの世界観であるために、何人もの作家がこの世界に遊び、数々の名作を残している。今も連綿と引き継がれる世界観は膨大で、全作品を理解することは至難の業であると思われる。なお、旧支配者クトゥルーは、現在太平洋ニュージーランド沖南緯47度9分、西経126度43分の海底に広がる巨大な石造都市ルルイエの山頂に、死んで夢見ながら眠りについている。そこはあらゆる形が歪み、緑色の滲出物を滴らせる悪夢の都市で、深きものどもによって守られている。


『悪魔性』(実在の書物)
17世紀後半にフランシスコ修道士ルドヴィゴ・マリア・シニストラリが著した書物。
主に夢魔についての問題を著述している。彼の死後1875年に完訳本が発見された。

『悪魔の逃亡』
ペトルス・アントニウス・スタンパの悪魔払いに関する著書。
アサフ・ピーバディの架蔵書。

『悪魔の本性について』(実在の書物)
イタリアのジョバンニ・ロレンツォ・アナニアが著した悪魔学の書、1589年刊。
アサフ・ピーバディの架蔵書。

『悪魔崇拝』(実在の書物)
フランスの異端審問官ニコラス・レミが、審問を通して書き連ねた魔女と魔術に関する資料集、1595年刊。魔女裁判に関する資料として用いられるが、かなりの部分が彼の創作であると思われる。

『アザトースその他の恐怖』
エドワード・ピックマン・ダービィが出版した詩集。宇宙的恐怖に満ち、読む者は恐怖に戦慄するという。
アザトースは旧支配者、無限の中心に棲む原初の混沌。形無くして知られざるもの、闇の原動者、思考と形態を破壊するもの、万物の王である盲目にして痴愚の神。その姿を見たものは発狂を免れない。
著者はラブクラフトの友人とされる人物で耽美文学とオカルトに没頭した彼は魔術師の娘と結婚した。

『アトランティスと失われたレムリア』
イギリス神智学者W・スコット・エリオットが著した書物。1896年刊。
失われた大陸を考察した著書。

『アフリカ各部の考察』
18世紀にコンゴを探検したイギリスの探検家ウェイド・ジャーミンの奇書。
先史時代のコンゴに伝わる幻の白人文化についての考察が書かれている。
著者は1765年に狂気に陥り、3年後に死亡している。

『アメリカにおけるキリストの大いなる御業』
ボストンのコットン・マザー牧師が著したニューイングランドの教会史、1702年刊。

『アル・アジフ』
ネクロノミコンのアラビア語原題。アラブの狂詩人、アブドゥル・アルハザードが晩年に(紀元730年)ダマスカスで著した狂える書物。題名はアラブで魔物の吼え声と考えられていた夜鳴く虫の声を意味する。

『暗号』
シックネスの著書。
死亡したシャリエール医師の架蔵書。
住む者も無く、幽霊屋敷と噂されるプロヴィデンスに立つ彼の屋敷に収蔵されている。

『暗黒の儀式』
古代エジプトの猫神バスト(ブバスティス)に仕える神官ラヴェ=ケラフの著した祭祀書。
猫の頭部に人間の体を持つ猫女神が生贄の屍肉を食らう儀式を記録している。

『暗黒の大巻』
超古代の大妖術師アルソフォカスの著した伝説の写本。アルソフォカスの書。
旧支配者を召喚する邪悪な呪文が綴られている魔道書。

『イステの歌』
ディルカ一族の手で神話時代の伝説的形態から、人類黎明期の言語に訳された魔道書。
その内容はネクロノミコンやエイボンの書にも匹敵すると称されている。

『異世界の監視者』
イギリス人作家ネイランド・コラムの長編小説。現実のクトゥルー神話と内容が酷似するため、作者に災いが降りかかった。

『古の鍵』
詳細不明の暗号文書。

『隠蔽されし者の書』
詳細不明の魔道書。
クラウス・ヴァン・デル・ハイルという妖術師一族の秘蔵書。

『ヴォイニッチ写本』
ロジャー・ベーコンの著作とされる全文が暗号で書かれた謎めいた写本。
古書籍商ヴォイニッチにより、イタリアの古城に保管されていた古い樽の中から発見され、1912年にアメリカに持ち込まれた。その正体はネクロノミコンであるとされる。

『失われた帝国の遺跡』
ドストマンの著書、1809年ベルリンで刊行。
ハンガリーのシュトレゴカイバール村にある奇怪な象形文字が描かれた石塔についての記述。太古から行われている邪神崇拝の宴に触れている。

『エイボンの書』
超古代の魔道書。ムー・トゥーラン、ヒューペルボリアの大魔道師エイボンによって書かれた暗黒神話や邪悪な呪文、儀式典礼の一大集成。別名象牙の書。
ネクロノミコンにも欠落している禁断の知識が数多く記されている。旧支配者ツァトグァの神官だったためか、特にツァトゥグァやヨグ=ソトースに関する記述が詳細である。オリジナルはいずこかに散逸し、カイアス・フィリパス・フェイバーによる9世紀のラテン語版が現存する最古の書物と言われる。
ヨグ=ソトースとは、全にして一なるもの。アザトースの副摂政、混沌の媒介、原初の言葉の外的表れ、虚空の門、漆黒の闇に永遠に幽閉されるものの外的な知性。天の獣の胸の中に位置する星に存在する。

『大いなる秘法』(実在の書物)
13世紀の錬金術師ライムンドゥス・ルルスの著書。
イスラム教徒を改宗させる目的で書かれた神学書。

『カーナックの書』
異次元の知的生命体について記されたエジプトの魔術書。

『科学の驚異』
モリスターの著書。
キングスポートの悪魔崇拝集団の長老が架蔵していた書物。

『化学宝典』
13世紀の哲学・科学者ロジャー・ベーコンの著作。

『黄衣の王』
読むものに厄災をもたらすと言われる黄色で装丁された書物。
その第2部を目にした者には恐るべき運命が待ち受けており、その内容を口に出すものはいない。
旧支配者ハスターやプレアデス星団の謎について記述されていると言われる。
ハスターとは旧支配者の声。復活するもの、風にのりて歩むもの、名づけられざるもの。
ハスターは空気の3宮を支配する、宝瓶宮の表す星座の中に存在する。

『金枝篇』(実在の書物)
イギリス人類学者J・Gフレイザーが著した宗教、呪術の発生と変遷を跡付けた民俗学の古典的大著。1890年刊行。

『グ=ハーン断章』
探検家ウィンドロップが1934年にアフリカ奥地から持ち帰った謎の文書。
古のものによって書かれた文書の写本の一部と言われ、ショゴスの封印された超古代遺跡について数多くの記述がある。

『クハヤの儀式』
異次元の知的生命体の実在が記された詳細不明の魔道書。
魂をかりたてるもの、イォド召喚について記述されている。

『グラーキ黙示録』
異界にかかわる事を記した魔道書。ダニエル・ノートンの所蔵。ブリチェスター一帯で悪名高く完全版は稀にしか存在しない。

『賢者の石について』
神学者トリテミウスが著した錬金術の基本的文献。
ジョセフ・カーウィンの架蔵。

『サドカイ教徒の勝利』
ジョゼフ・グランヴィル著。魔女信仰の書籍、1681年刊。
キングスポートの悪魔崇拝集団の長老が架蔵していた書物。

『サボスのカバラ』
1686年に刊行されたギリシャ語の本。
サイモン・マグロワの架蔵。

『サマコナの手記』
16世紀のスペイン探検家サマコナによって書かれた綴り。オクラホマのウイタチ族の塚から発見され、その下に広がるクン・ヤン世界と超科学を有する種族について書かれている。

『サントゥー粘土板』
H・Hコープランド教授が1913年に中央アジアの奥地にある古代の埋葬地、巫術師サントゥーの墳墓で発見・解読した謎の古代文書。凍てつく荒野の只中にある三重に禁じられたレンの暗い大地についての記述がほのめかされている。教授は後に精神に異常をきたす。

『屍食教典儀』
ダレット伯爵によって著された異端の書物。ミスカトニック大学他、世界各地に数冊の存在が確認されている。ナイアルラトホテップと輝くトラペゾヘドロンについて記載されているらしい。
ナイアルラトホテップとは這い寄る混沌、旧支配者の総意を受けるもの、使者にして従者、あらゆる姿をとっていかなる時空にも存在するエーテル。

『深海祭祀書』
ドイツで書かれた海の魔物にかかわる魔道書。太古の昔、海に沈んだクトゥルーを信仰する教典。

『水神クタアト』
無名氏の手によって著された伝説のおぞましき書物。クトゥルーやオトゥーム等、水の旧支配者を召喚する儀式の集成で、世界に3冊の存在が確認されている。

『水棲動物』
ガントレイが著した海の魔物にかかわる著書。

『世界の実相』
ゴーティエ・ド・メッツの著作。その冒涜的内容は、読む者を発狂せしめる。

『セラエノ断章』
壊れた石版の形で保管されている禁断の書。旧神や旧支配者について列記されている断章。セラエノの大図書館に架蔵。シュリュズベリィ博士によって写本が書かれている。
この大図書館には旧支配者が旧神から盗み出した石碑や書籍が数多く所蔵されている。

『ゾハールの書』
13世紀後半にスペインで書かれた、約20巻からなるカバラの教典。ジョゼフ・カーウィンの架蔵書。

『多元複写法』
神学者トリテミウスが著したカバラの基本的文献。

『探求の書』
8世紀にアラブの錬金術師ゲーベルが著したと伝えられる伝説の書。

『断罪の書』
詳細不明

『智恵の鍵』
錬金術師アルテフォウスの著作。

『哲学者の一群』(実在の書物)
別名魔法哲学。伝説の錬金術師ヘルメス・トリスメギストスの著作と伝えられる。ジョゼフ・カーウィンの架蔵書。

『トートの書』
エジプト神話に登場する伝説の書。アトランティス人トートの書としても知られる、大ピラミッド内で発見された幻の超古代文書エメラルド・タブレットであると言われる。
後にクロウリーによってしたためられた同名の著作とは全く関連は無い。

『ドール讃歌』
ミスカトニック大学に断章が所蔵されている詳細不明の魔道書。

『ドジアンの書』(実在の書物)
忘れられたセンザール語で書かれた世界最古の写本でヤシの葉にまとめられている。
神智学者ブラヴァッキー夫人の架蔵書。ネクロノミコンの原本であると推測されている。

『ナコト写本』
人類誕生の5千年前(更新世時代)に生存していたイスの種族が残した最古の魔道書。ツァトグァやカダスに言及している。古代北極のロマールの民により人類の言語に訳され、ロマール滅亡に際して異界ウルタール寺院に収蔵された。ミスカトニック大学の他数冊が現存するのみである。

『西ヨーロッパの魔女儀式』(実在の書物)
イギリスの歴史民俗学者マーガレット・マレーの著した古典的研究所。1921年刊。
魔女信仰の起源をキリスト以前の土着信仰と仮定した論。

『ニューイングランドの楽園における魔術的驚異』
アーカムの神父ウォード・フィリップスの著書。

『ネクロノミコン』
アラブの狂詩人、アブドゥル・アルハザードが晩年に(紀元730年)ダマスカスで著した狂える書物。ネクロノミコンは950年にテオドラス・フィレタスによって翻訳されたギリシア題。同書は総主教ミカエルにより焚書に処され、1228年にはオラウス・ウォルミスによりラテン語に訳されるが、やはり同時代の教皇グレゴリウス9世により焚書に処される。多くは17世紀版で、ハーバード大学、ミスカトニック大学、ブエノスアイレス大学等に所蔵が確認されている。現存する最古の物は15世紀の写本で、大英博物館に収蔵されている。17世紀に英国の魔術師ジョン・ディー博士によって英語版が作成されたが、不完全なものしか現存していない。ジョン・ディーにはエノクの書と呼ばれる暗号文書があるが、これがネクロノミコンであるとも言われている。
別名死霊秘法、イスラムの琴(カノン)、アル・アジフ等様々な呼び方をされる。注釈書として死霊秘法新訳がフィーリによって書かれている。

『ネクロノミコンにおけるクトルゥー』
ラバン・シュリュズベリー博士の未完の草稿。旧支配者の恐るべき実態が綴られている。

『秘密書記法』
16世紀に書かれたイタリアの自然哲学者ジャバンバティスタ・ポルタの暗号関連著書。内容は不明。

『淵みに棲むもの』
ガストン・ル・フェの著した海の魔物に関するおぞましい書。クトゥルーに関する文献。

『フサンの謎の七書』
別名大地の七書。古代の神々に関する秘典、内容は一切不明。賢人バルザイは同書に精通していたという。

『墳墓の屍体嗜食』
ミハエル・ランフト著1734年刊。
悪名高い魔術師の家系であるサイモン・マグロワの架蔵書。

『ポナペ島経典』
A・Eホーエイグ船長が1734年に南太平洋ポナペ島で発見し、アーカムに持ち帰った経典。ヤシの葉で出来たパーチメントでムー大陸についての記述がある。それを基にしてコープランド教授がポナペ島経典から考察した先史時代の太平洋海域(1911年)、ポリネシア神話―クトルゥー神話体系に関する一考察(1906年)を著している。それらは異様なオカルト理論書ではあるが、科学的大著と目されている。

『魔女の審問』
ヴィネの著書。ウライア・ギャリスン架蔵書。

『魔女への鉄槌』(実在の書物)
ドミニコ修道士ヤコブ・シュプレンゲルとハインリヒ・クラメールの共著。1486年刊。魔女狩りの資料として活用された悪魔や魔術師の恐怖を説いた神学文書。

『無名祭祀書』
フォン・ユントツが遍歴の過程で見聞した奇怪な伝承を記した禁断の書物。古代の石碑の文字や秘密宗派の経典に記された古代文字まで書連ねられている。1839年デユッセルドルフで初版刊行、現在伝わる大多数が1845年にロンドンで出版された誤訳の多い海賊版か、1904年にニューヨークで出版された削除版のいずれかで、初版は全世界に6冊も無い。別名黒の書。

『モーゼ第7の書』
中世に偽作された魔道書。モーゼが書いたとされる書は第1から第5が創世記、第6が出エジプト記にあたり、第7の書以降は存在するはずが無い。しかしながらそれらの書物は第9の書まで確認されている。セス・ビショップの架蔵。

『モンマスシャー、グロスタシャー、バークリィの妖術覚書』
サングスターが著した書物。セヴァンフォードの丘にあるノルマン人の古城に住み、魔道に耽った後不可解な失踪を遂げたモーリィ卿にまつわる恐ろしい伝説を伝えている。
居城の地下には今もバイアティスが封じられていると言われている。

『妖術師論』(実在の書物)
フランスの法学者アンリ・ボゲの著書。1600年刊。
悪魔学における古典的大著。

『妖術論』
マイクロフトの著作、奇妙な古書の一種でサイモン・マグロワが架蔵。

『妖蛆の秘密』
ルドヴィグ・プリンが獄中で執筆した魔道書。中東地域の忌まわしい知識に満ちた異端的信仰に詳しい書籍。原題デ・ウェルミス・ミステリイス。

『妖精の書』
強力な呪法が記された魔道書。ムー・トゥーランの魔道士エヴァクの架蔵書。

『ヨス写本』
ヨス最大の都市ジンの地下から発見された古代文書。ツァトグァの縁起が記述されている。
ヨスとは地球内部の中層部に位置する世界で、赤く輝くヨスとも呼ばれ、そこには太古のトカゲに似た人類が棲息する。

『慄然たる神秘』
グロッセ公爵が著した書籍で詳細は不明。ジョン・コンラッドが18世紀版を架蔵している。

『龍脚類の時代』
バンフォートの著書。シャリエール医師の架蔵書。

『ルルイエ異本』
クトゥルー崇拝を著した禁断の書籍。アジアのほの暗い内陸部からエイモス・タルトが10万ドルで入手した写本。異界の者を召喚する呪文等が記され、人間の皮で装丁されている。これを元にしてシュリュズベリー博士はルルイエ異本を基にした後期原始人の神話型の研究を著している。

『錬金術研究覚書』(実在の書物)
イギリスのオカルティストE・Aヒッチコックの著作。1865年刊。アクロ文字について断片的な記述がなされている。

『錬金術の鍵』(実在の書物)
イギリスのカバラ学者ロバート・フラッドが1633年に著した書物。錬金術とカバラの書。


参考文献 『新訂クトゥルー神話事典』 東雅夫著


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